静穏の日々

好きな音楽、テレビなどの趣味を気ままに。

新譜レビュー・東京事変「ニュース」 ~ 事変が存在する'20年の世相と未来

世界が今、大変だ。数ヶ月前にはまだ遠い話だと思っていたウイルスの話題がどんどん身近になり、恐ろしく、日々のニュースに耳を傾ければ自然と心が暗くなっていきそうな、窮屈な今を生きている。

彼らの“再生”と「選ばれざる国民」が発表されたのは今年の元旦だった。無論、その時はまだ、今春、世界が今日のような未曾有の事態に直面することなど、誰も知る由がなかった。
(NEW EP『ニュース』ライナーノーツより)

来たる2020年4月8日、復活を遂げた伝説のバンド・東京事変はついに8年ぶりとなる新作を世に放った。本当に待望の作品だ。解散前・2012年リリースの「color bars」で行った"メンバー1人1人のアイデアを持ち寄って作るEP"企画の再来である本作は、林檎さんソロでは実現しないタイプの 自由奔放で多様なカラーに溢れた、"これぞ事変!!"という楽しい作品となっている。日々 心を明るく保つためにも、今は暫し、こうして好きな音楽に耳を傾けていたい。


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東京事変というバンドの作品を追う上で最もイイな、と感じるのが、ご存知の通り 作品タイトルがテレビ番組のテーマに沿ったものになっている点で、「color bars」、「深夜枠」で終わり、8年経って「ニュース」で再開させるというのが本当に粋で素敵だ。

選ばれざる国民

選ばれざる国民

「ニュース」というテーマに準じて林檎さんが"報道タッチで挑みました"と語る 浮雲・作曲の1曲「選ばれざる国民」は、"終日片手はオンライン" "熱心なファン皆辛辣なアンチ"など現代の情報社会の世相にも切り込んだフレーズと 奔放な曲展開が印象的。パッと聴きで曲から伝わってくるメッセージは難解でパズルのようで、復活と同時にこういう曲からローンチさせたのが本当に絶妙だな~と感じる。アルバム「娯楽(バラエティ)」(2007年)収録の「某都民」の続編として描かれてるとのことで、愛好家の方々はサウンド・歌詞 双方で聴き比べしてみるのも楽しいかも。

うるうるうるう

うるうるうるう

そして2曲目、伊澤一葉さん作曲の「うるうるうるう」。これが、初聴き1周目で最初にグッと心を掴まれた。伊澤さん作曲のこれまでの曲というと、「キラーチューン」とか「絶対絶命」とか「雨天決行」とか「新しい文明開化」とか、個人的に"人生懸けて愛してきた"レベルの神メロ(または"エモメロ"?)メーカーなので今回 本当に期待してて、バッチリその期待通りの作品を聴けた現在の感動…空が伊澤っている(?)。本当にありがとうございましたという感じで。

メロの良さは勿論の事、この曲に込めた林檎さんのメッセージも本当に良い。不安と期待と希望とやるせなさと…色々混じり合った2020年の空気感を見事に表現しているし、2番で"感情の渦回避しては堂に入って粧し込んで最終形態にまで来た人類"に、"人生の酸味も甘味もさあどうぞ"と仰っているところ… 現在の世相を的確に表現せねば!!と意図的に書いたのか、それともあくまでエンタメ的な歌詞表現として綴ったのか…。普段の林檎さんの発言から見るに後者だとは思いますが。何れにしろ素敵です。

現役プレイヤー

現役プレイヤー

3曲目、亀田誠治さん作曲の「現役プレイヤー」は、あぁ師匠らしいなと和やかな気持ちになる温かいメロディーが特徴的な、まさに"スポーツ選手に捧ぐ讃歌!!"的1曲。この作風、なんだかとっても懐かしい感じがするな~。これも「娯楽(バラエティ)」に近いものを感じる。こういう曲が2020年に今リアルタイムで出会えてるって!!スゴい!!  "逆境でさえ全部謳歌して愛そう"。林檎ワークス恒例のピッタリ3分曲なので、是非 今後のラーメンのお供に。

猫の手は借りて

猫の手は借りて

4曲目、刄田綴色さん作曲の「猫の手は借りて」。刄田さんは、「color bars」の「ほんとのところ」で作詞・作曲・歌唱まで担当し、プロじゃん…と思える程の貫禄たっぷりの歌声、衝撃的な才能を露わにし、"事変らしからぬ世界観"というかむしろ"事変ってどんなバンドだっけ?"と混乱するほどぐっちゃぐちゃに掻き乱してくれる策士で、今回の楽曲もそんな毛色が確実に現れてるように感じる。シンプルなようで、味わい深くカオス。"何何っぽい"という表現が許されるならば、うん、イエモンっぽい。林檎さんの鋭い歌詞も相まって、ワイルドにダークに?切り取られた、刹那的な"現在の一瞬"という感じが良い。

最後は林檎さんプロデュース、映画「名探偵コナン 緋色の弾丸」の主題歌として各所でヘビロテ中の「永遠の不在証明」。これは殆ど言う事なしかな。ひたすらカッコイイ。コナンちゃんと見た事ないので分からないんだけど、様々なフレーズがストーリーとリンクしてワクワクするんだろうなぁというのと。児玉裕一監督のMVが相変わらず素敵すぎて泣けるのと。ラスト1分、弾け飛ぶように"本気事変"大爆発お祭りテクニックな演奏と。

復帰を遂げた超・才能集団が織り成す"人生"と"未来"の音楽。この先どれだけ作品をリリースしてくれるのだろう。事変と生きる2020年……。「ニュース」を聴きつつ、現在の世の状況が少しでも良い方向へと変わってくれることを祈りたい。