静穏の日々

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大杉漣さん著「現場者 300の顔をもつ男」を読んだ感想

 

現場者 300の顔をもつ男 (文春文庫)

現場者 300の顔をもつ男 (文春文庫)

 

'18年9月に新たに改訂,出版され、去年の2月頃に買った大杉漣さんの自伝「現場者 300の顔をもつ男」をようやく読み終えた。いや、ようやくというか、ここ近年 自分はすっかり読書家じゃなくなっていて、本を買っても最低 半年以上は放置してしまうのが常となってきてるのだけど、それで読み終わるのがだいぶ時間差になってしまうという。結局この年末から読み始めて、今お正月で、計3日くらいで読了してしまった。めちゃくちゃ面白かった。

この本を買おうと思った経緯は、'18年2月 名俳優達が勢揃いして毎話 凄まじい化学反応を起こしていたあの刺激的ドラマ「バイプレイヤーズ」のシーズン2の放映中に、突然 大杉さんが亡くなってしまわれたことに、大きくショックを受けたことからであった。元々 大杉さんのことをよく知っている訳でもなかったし,その時点ではファンだったとかそういう訳ではなかったのだけど、当たり前のようにテレビや映画で拝見していた方がある日 突然"亡くなった"との報道。その事実を、なんだかとても受け止め難かった。悲しいというよりは、激しい喪失感に襲われるというか。まだまだ先の長い自分の人生の中で,初めて"1人の人間が死ぬ"って、こういうことなんだ…と知ったような気がした。

そういう経緯で 話が戻るけど、計3日で読了してしまうほど"面白かった"大杉さんの自伝。なんだろう、本当に文才のある方なんだなぁとまず読んでて思った。事実を述べてるだけなのに、綴り方のひとつひとつが面白くて興味深くて、ページを捲る手が止まらない。大杉さんの上京、劇団への入団から、舞台に立ち、演劇の楽しさを知るまでの流れ、そして奥様との馴れ初め。冒頭からまるで朝ドラを見ているかのように、何気ないようでドラマチックな一続きの人生にとっても魅力を感じ、惹き込まれた。


そして、さらに面白いと感じたのが、大杉さんの"なんでもやってみよう"という精神。実はとってもお茶目で(※大杉さん曰く"渋チャメ系")、脱ぎたがりで、同じ現場の俳優が戸惑うほどアドリブをぶっ込む「爆弾男」で、自分が面白いと感じたらゴミ捨て場から衣装を探してきたりなんてするとか、どんな状況に対しても楽しんでしまう余裕。啓発本じゃないし特別 諭すような書き方は一切されてないのだけど、 この方が綴る生き方の全てに憧れてしまうような、こんなふうに生きてみたい!!と思えるような、そんな響きに終始 溢れていた。

狭いこの世界の中で、心から楽しんで暴れまわり、それまで知らなかった世界を知るさま。これが,"酸いも甘いも噛み分ける"ということなのか。本当に、楽しい方だなぁと読んでて思った。

"良いことばかりが積み重なって、今のぼくがあるんじゃない。嫌な思いも味わって、だからわかることというのも必要なのだ。"

大杉漣 (2018). 文春文庫 , 「現場者 300の顔をもつ男」    p178

…が、そんな反面、読んでて心配になってしまうようなところも多々あった。演技にのめり込む姿勢から、産業廃棄液の中に全身浸かって死にかけたり、過労から意識を失ったりといった経験もしていたそうで。本の中で綴られているそんな様子に,恐ろしさを感じながらも、やはりどこか楽しんでいるような雰囲気に、読んでいて複雑な気持ちだった。それらが体調に危機を及ぼす直接的な原因になったかどうかは分からないけど、もし天国で、"あぁ,楽しい人生だったなぁ"と思われているのなら、いいな。

とにかく、面白い本でした。久しぶりに熱中して読める本に出会えて良かったな。大切にしたい。嗚呼、もっと読書しよう…。